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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)893号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

大阪高等檢察廳檢事長代理檢事岡田善一の上告趣意第一點について。

論旨は所得税法第六九條第一項にいわゆる「不正の行爲」には納税義務者が所得税を免れるため故意に所定の申告をしない所謂單純不申告をも包含するものと解すべきであるから原判決が被告人の不申告を右法條の「不正の行爲」に該らないとしたのは同法條の解釋適用を誤った違法があると云うのである。ところで舊所得税法(昭和一五年法律第二四號)第八八條の規定も「詐僞其ノ他不正ノ行爲ニ依リ所得税ヲ逋脱シタル者ハ」と云い用語は現行所得税法第六九條第一項のそれと異らないのである、そして舊法の下においては所得の單純不申告は犯罪ではなかったのである。而して現行法の下においても不申告そのものを犯罪とする明文規定はないのみならず不申告を犯罪とする趣旨は現行法上何處にも現われていないのである。現行法第六九條第一項は詐僞その他不正の行爲によって所得税を免れた行爲を處罰しているがそれは詐僞その他不正の手段が積極的に行われた場合に限るのである。それ故もし詐僞その他の不正行爲を用いて所得を秘し無申告で所得税を免れた者はもとより右規定の適用を受けて處罰を免れないのであるが、詐僞その他の不正行爲を伴わないいわゆる單純不申告の場合にはこれを處罰することはできないのである。なる程現行所得税法は舊法と異り申告納税制度を採用し納税義務者の申告を所得税額決定の基礎とする建前をとっていることは所論のとおりである。しかしそれだからと云って不申告という消極的な行爲をもっていわゆる「不正の行爲」の概念のうちに包含させようとする所論の見解は到底これを是認することはできないのである。もし單純不申告による所得税の逋脱行爲を處罰する実際上の必要があるならばそれは立法によって解決すべきであって、所論のような解釋によってこれを解決することはその當を得たものではない。從って原判決の見解は正當であって論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴施行法第二條舊刑訴第四四六條により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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